今回のF様の事例の立役者は、ケアマネージャーの大平さんです。
日々ご本人とご家族様との間に入り密に関わりを持っています。そんな中で、少しでも元気に、明るく、ここでの暮らしがより楽しくなってもらいたいけどどうしたものかと悩んでいました。だからこそ、今回も何か出来ないかという強い思いを持っていました。それに呼応するように大平さんと協力して動いたのは、担当介護士の横田さんです。横田さんも日々、何か元気になるきっかけが作れないかと悩んでいました。
下記はそんな二人の活動記録です。
F様は86歳。今年の1月にパライソに入所された方です。脊椎圧迫骨折をしてしまい病院に入院。退院後にそのまま入所されました。入所当初から元気がない方で、骨折による痛みもあってか今でも基本は居室にて横になって過ごす時間が長く、日々のレクリエーション等にもあまり積極的には参加しない方です。
F様は、もともとご自宅で旦那様を介護してきた方です。15、6年という長い間。介護する側の大変さや苦労も感じてきた方です。だからこそ、自分の時は家族に同じ苦労や迷惑はかけたくない。実際、「自分が介護を受ける時は施設に入る。」と娘さんに話していたようです。本当は施設には入りたくなかった。でも入院をキッカケにとうとう施設に入ってしまった。もうこれで私の人生も終わったという諦め。
もしかすると、元気がないのはそんな気持ちで過ごされているからかもしれません。
ただ、少しでも今より明るく、少しでも今より元気になってもらいたい。少しでも楽しく日々を過ごしてもらいたい。そう強く思っています。じゃあどうしたものか。そう悩んでいる中で迎えたのが、F様のお誕生日でした。
なんとか楽しめるイベントにしたい。
悩む中で改めて目を通したアセスメントシート(入所時にご本人様のことを人生歴までも含めてまとめたもの)。
すると、以前は着付けの先生と茶道をやられていたということが分かりました。F様にその話を詳しく聞いてみると、「着物持っているよ。」とのことです。
これだ!と思いました。
昔の楽しい記憶を呼び起こして、少しでも元気になってもらいたい。
そう考え、お誕生日当日は、久々に着物を着ていただき、お祝いのケーキを召し上がっていただこうと考えました。ケーキの甘さって非日常なワクワク感のある味だと思います。しかもこのケーキ、ただのケーキ屋さんのではなく、F様が昔から家族ぐるみでお付き合いのあるケーキ屋さんで、そこのケーキを食べることで着物と合わせて、当時の楽しい記憶を思い出してほしいと考えました。ケーキは記念日など楽しいイベント時に食べる機会が多いと思います。味覚という記憶と密接につながる感覚を通して、懐かしい味からそんな当時の楽しい記憶を呼び起こしてもらいたいと。
ご家族様と連絡を取り合い、ご自宅から着物を、当日にケーキを持ってきていただくように計画しました。
また、着物の着付けと髪の毛はセットです。その時F様は白髪が目立っておりましたので、一緒に髪の毛も染めてはどうかとご家族様にもご提案しました。すると、昔から少しでも白髪が見えることが大嫌いで、染めることが大好きだったということが分かったのです。施設内にある理容室に予約を入れて、染めることも決まりました。
もしかすると、入所してから白髪が増えるにつれて、悲しまれていたのかもしれません。これからは白髪を生やさないという、新しいケアのアプローチも見つけることが出来ました。
お誕生日当日。他の職員にも協力を仰ぎ、着付けや髪の毛のセット、お化粧をさせていただきました。
はじめは遠慮されている様子がありましたが、着付けとお化粧が終わり、ご家族様からお預かりしたプレゼントと花束、ケーキを渡すと、涙を流され喜んでいただけました。ご家族様から電話にてお祝いのお言葉も。その際も、言葉は出さずとも静かに深く噛みしめるように頷いておられました。
翌日、F様から「昨日はありがとうね。」とお言葉をいただきました。実はF様は認知が進んできている方です。そうすると、当日のことでも忘れてしまうのが多いのですが、着物を着たこと、誕生日を祝ったことをはっきりと思えておられました。やはり、心に強く残った楽しい記憶などはしっかり留まるのだなと再認識することが出来ました。
この一回のイベントで、F様が元気になられたかと言えば、そんな簡単な事はありません。ですがこれで終わらず、様々なアプローチを通して、少しでも明るく、少しでも元気に過ごしていただける日々を実現していきたいと思います。
ただ、そのためにも、もっとご本人のことをよく知る必要があります。自ら積極的に関わりに行ってご本人様とのコミュニケーションをもっと密に。そしてご家族様とも何でも話せる関係になる必要があると感じました。そうやって信頼関係が気づければ実現に近づけると思います。そして、周りのスタッフの協力も大事です。そうすれば自分が出来ないことも協力して実現できます。
引き続き、日々精進してまいります。
余談ですが、ある時F様に、何かしたい事ありますか?要望はありますか?とお伺いすると、いつもは認知症もありはっきりとした言動の見られない方なのですが、「そういうのはあなたたちが見つけてやるんじゃないの?」とはっきりとおっしゃいました。F様自身が介護をずっとしてきた身で、声なき声をずっと感じ取ってきたからこその激だと思います。ハッとさせられました。おっしゃるとおりです。小さな変化も逃さぬよう観察し、自ら見つける。介護においていちばん大事なことを教えていただきました。ありがとうございます。
(地域密着型特別養護老人ホームパライソサンクス ケアマネージャー 居室担当介護士)
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